こんにちは。行政書士ポラリス法務事務所の北原です。
いよいよ10月も終わりに近づき、例年であれば、ハロウィンイベントが行われるなど俄かに街が賑わう季節です。…が、残念ながら、今年は長引くコロナ禍の影響で、そういったイベントも開催自粛の傾向にあるようですね。
さて、昨年の相続法改正から少し時間が経過しましたが、現在なおご相談・ご質問頂く改正点があるので、少し触れてみたいと思います。
今日は、今年の4月からスタートした「配偶者居住権」についてです(※以下、分かり易さのため、「夫」・「妻」と設定しています。立場が逆の場合には、当事者を置き換えてご覧ください。)。
■「配偶者居住権」が新設される前の問題点
従前は、夫が妻より先に他界すると、遺産分割協議により妻が夫婦で住んでいた夫名義の自宅を相続できなかった場合にはその後は妻が自宅に住み続けられなくなったり、また、自宅を相続できたとしても預貯金を相続できずに生活費に困ることになったり、はたまた、せっかく自宅を相続できたのに自宅を処分しなければ他の相続人への遺産分割の費用が捻出できない…などという問題がありました。
こうした問題は、実際には相続人が実の母子である場合には起こりにくいとは言われています。しかし、例えば、被相続人が複数回婚姻した結果、相続人が後妻と先妻の子となるような場合には、相続人間でこうした争いが起こらないとも言い切れません。
そこで、これでは、あまりにも妻の居住の確保や生活保障がされないではないかということで、新法では「配偶者居住権」が新設され、従前の問題への改善がなされました。
■「配偶者居住権」とは?
こうした従前の旧相続法の下での問題点に対応すべく、改正相続法では「配偶者居住権」が設けられました。
「配偶者居住権」とは、建物に関する権利を、「居住権」と「所有権」という二つの権利に分けることを前提として、妻の居住権を守る制度です(※これとは別に、「配偶者短期居住権」という制度も新設されましたが、それはまた別の機会に取り上げたいと思います)。
この制度が適用されると、妻が配偶者居住権を得るときには、他方の相続人は配偶者居住権の負担付きの建物の所有権を取得することになります。
例えば、相続人が妻と子で、相続財産として、2,000万円の価値ある建物と2,000万円の預貯金があった場合、配偶者居住権の価値が1,000万円であるとすると、妻は自宅に住み続けながら、1,000万円分の預貯金を得ることができ、生活費に困ることはありません。他方で、他方の相続人である子は、残り1,000万円分の預貯金を得た上で、妻の死後は配偶者居住権の負担の外れた完全な建物の所有権を取得することができます。
ちなみに、「配偶者居住権」の成立要件等は、次の通りです。
- 成立要件:①妻が夫の死亡時に夫の所有する建物に居住していたこと ②(i)遺産分割協議で配偶者居住権を取得するとされたとき、又 は、(ii)夫が妻に配偶者居住権を与える旨の遺言を遺したとき
- 権利の範囲:居住建物の「使用」及び「収益」
- 存続期間:妻の終身の間(※例外あり。)
ただし、妻には、その権利を他に譲渡できない、建物所有者の承諾なしに増改築ができない等の一定の制限がかけられ、また、建物の維持管理をするための費用は負担しなければならない等の一定の負担が求められます。
ただ、こうした制約や負担をもってしても、従前のように、高齢になってから住み慣れた自宅を出て行かなくてはならなくなったり、家は手に入ったとしても預貯金を相続できずに生活に困窮したり…などということはなくなりますので、安心ですよね。
■「配偶者居住権」を成立させるためには?
この権利を成立させるためには、上記した【成立要件】①及び②を充たす必要があります。成立要件②については、他の相続人との間で遺産分割協議が整わない場合に備え、②-(ii)のほうを選択するのが安全かと思われますが、その際には、一つ注意が必要です。
すなわち、被相続人である夫が、生前に適式な形で遺言を遺すのはもちろんのこと、大切なのは、その遺言において、妻に配偶者居住権を「遺贈する」と明記することです。(※遺言で「相続させる」と記載された場合、「遺贈」ではなく、「遺産分割方法の指定」に該当するため、配偶者居住権は成立しません。)
というわけで、奥様にご自宅の居住権と預貯金の一部を遺してあげたい…とお考えの方や、複雑な家族関係によりご自身の死後の争族が想定されるような方は、この制度のご活用をご検討されてみるのもいいかもしれません。
弊所では、遺言の作成サポート(※遺言についての参照ページは、こちらから。)をさせていただいております。まずは一度お気軽にご相談ください。
行政書士ポラリス法務事務所
代表 北原 絢子
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