こんにちは。行政書士ポラリス法務事務所の北原です。

 この頃、ふとした時に金木犀の香りを感じるようになりました。爽やかで、気持ちの良い季節ですね。朝晩少し肌寒く感じるようになって、わが家では毛布を出しました。温かくして、秋の夜長を楽しみたいですね。

 さて、新型コロナウィルスの拡大が始まってからはや半年以上が過ぎ、コロナとの共生も大分日常に馴染んできたように思います。

 このように感染症で景気が悪化するなか、そのことを理由として取引先から無理な要求を押し付けられている下請企業も少なくないようです。そこで、今日は、この感染症拡大により影響を受ける下請等との取引に関して、公正取引委員会から出された「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A」(以下、「Q&A」。)について、少し触れてみたいと思います。

 (1)発注取消しについて

 発注の取消しについては、発注した製品の受領日の前後に分けて、受領日「前」に発注の取消しを行うことは、下請法で禁止される「不当な給付内容の変更」(同法第4条第2項第4号)に当たるものとされています。なお、この違反行為の成立には、「下請事業者の利益を不当に害」するという要件を充たす必要もあるため、下請事業者に生じた費用を負担する等の対応をとり、「下請事業者の利益を不当に害」することのないように注意することが肝要です。

 また、受領日「後」に発注の取消しを行う場合には、「受領拒否」(下請法第4条第1項第1号)に該当し、問題となるとされています。

(2)取引停止や大幅な取引量の減少について

 これに関しては、下請法上、禁止する規定はありません。しかし、下請中小企業振興法の規定に基づく進行基準では、継続的な取引関係にある場合に、取引停止等を行うときは「親事業者は、相当の猶予期間をもって予告」する旨明記されています。Q&Aでは、このことをもって、「親事業者は、下請事業者の経営に配慮しながら、下請事業者と十分に協議し…今後の発注に係る対応を決定するよう努め」るよう求めています。

 このように、協議は努力義務に留められていますが、発注の内示が(それによって下請事業者が原材料の調達等に取り掛からなければ納期に間に合わないような)実質的な発注に当たる場合に、発注内示した製品を受領せずに取引停止するような場合には、前記(1)の「受領拒否」に該当する恐れがあるため、注意が必要とされています(植村幸也「下請法違反‐コロナ禍での注意点‐」会社法務A2ZP.16以下)。

(3)代金について

■代金減額の要請

 親事業者が感染症に関する製品の安全性確保等のための費用を捻出するために、下請事業者に責任がないにもかかわらず、既に発注した製品にかかる下請代金の減額を要請したり、自己のために金銭を提供させることは、下請法(第4条第1項第3号、同法第4条第2項第3号)違反となります。

 これに対し、未だ発注前の段階で、これまでよりも安い価格で発注を行うことは、下請代金の減額には当たりませんが、過度に安い価格で発注をすることは、「買いたたき」(下請法第4条第1項第5号)に当たる恐れがあります。

■一方的な単価の据置き

 生産・調達コストの大幅上昇等の理由によって、下請事業者が製品単価の引上げを要請したにもかかわらず、親事業者が十分な協議に応じることもなく一方的に単価を据え置くことは、「買いたたき」に該当する恐れがあるとされています。

■一方的な単価の引下げ

 発注当初は想定していなかった経済状況の変化等によって、親事業者から下請代金について協議を申し入れることは、直ちには下請法違反の行為とはなりません。しかし、自己の損失補填のみを理由として、「一方的に、一律一定率で単価を引き下げ」ることは、上記と同様、「買いたたき」に当たる恐れがあります。

(4)その他

 小売業者が、製造業者や卸売業者等の納入業者に対して、顧客の安全確保に必要な作業等を無償で提供させるなどして、下請事業者の利益を不当に害する場合には、「不当な経済上の利益提供要請」(下請法第4条第2項第3号)として、問題になります。

  コロナ禍では、これまで想定できなかったような事態が発生し、親事業者・下請事業者ともに厳しい状況にあるかと思われます。こうした状況下では、普段ならばできていたはずの法令遵守が後回しになりがちかもしれません。しかし、下請事業者の存続は、親事業者の事業運営にも寄与することにもなります。普段以上に法令遵守に注意し、また、取引相手の事情や状況にも目を配りながら、継続的な取引関係を維持していきたいですね。

行政書士ポラリス法務事務所

代表  北原 絢子


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